【どうなる? 18歳の1票】『有権者教育』の目的と文科省の責任
第72回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-
■票ではなく、18歳が未来を選択できるために
この質問に対して萩生田文科相は、「現実に照らすとすごい難しいところがある」と答えている。そして、難しい理由については次のように説明する。
「政治的中立に関して言えば、総務省に届出のある政党の政治家っていうのが、それぞれの地方自治体にすべて揃っているということは考えられない。たとえば、私の町には私しか国会議員はいない。その私が学校へ行って話をすると、これは私が所属する政党の考え方を子供たちに披露することになりかねない」
これは少しおかしな話ではないだろうか。これでは、各自治体に全政党の国会議員や候補者がいるわけではないから中立的な有権者教育ができない、ということになってしまう。そもそも、有権者教育を行うのは政治家ではない。教員の役割である。
穿った見方をすれば、教員に中立な有権者教育ができるわけがない、してほしくないという萩生田文科相の声が聞こえてきそうな気もする。
2015年に公職選挙法が改正されたのを受けて、同年10月29日に文科省は、「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」という通知を各都道府県教育委員会および各都道府県知事等宛に出している。この通知で、高校生の政治的活動を事実上禁止する1969年の通達を廃止し、「選挙運動を行うことなどが認められることとなる」としている。ただし、「必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解される」ともしている。
そして公職選挙法が改正された2015年に高校で行われた有権者教育の実態は、「模擬投票」でしかなかった。選挙管理委員会の職員を招いて、「投票の仕方」を習わせたのだ。別の言い方をすれば、その程度のことしかできなかった。
萩生田文科相の発言は、有権者教育推進会議が最終報告案で示した現実の具体的な政治事象を扱った授業を推進するというアクセルに対して、ブレーキを踏んでいる。ブレーキは大切であるが、強く踏んでいけば車体は進まなくなる。しかし今後、さまざまな場面で文科省がブレーキを強く踏みこむ可能性は高い。
そうした中での有権者教育が、若い世代の政治的関心を高めることにつながっていくだろうか。「選挙に参加したい」という気持ちを高められるのだろうか。そして「投票の義務化」をチラつかしている。政治のことを正しく考える教育がないままに行う投票になってしまいかねない。
こうした状況を、有権者教育を主として担っているはずの学校と教員は、どのように捉えていこうとしているのだろうか。
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